
丹波市市島町。丹波市北西部のこの町にとてもユニークなおそば屋さんがあります。オーナーの佐藤さんは定年後一からそばのことを勉強し、お店を数年のうちに丹波市でも指折りの繁盛店にしました。お店だけにとどまらず、丹波市のそば職人を集めてコミュニティを作ったり、イベントを催したりと、次々に活動の幅を広げる佐藤さん。そんなそばんちさんは一風変わったスタイルの働き方ができる場所になっています。今日はそんなそばんちさんにインタビューしてきました。
佐藤さんは定年退職後、Iターンで丹波市に来られました。そばの仕事を始めたのも、丹波市に来てから。
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・そばんち流、給料も貰えるそば道場。
・経営者の目線で働く。仮想目標を持つことの大切さ。
・そば職人になりたい人、そば屋をやりたい人に、ぴったりの仕事。
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そばんち流、給料も貰えるそば道場。
そばんちの従業員さんは、一風変わったお仕事の仕方をされていると聞きました。そのあたりを詳しく伺っても良いでしょうか?
そうだね、例えば今、そばんちに就職してここの収入を全てとして生活するのは、今は恐らく無理なんだよね。だから、うちのシステムは正式な社員と修行する人と、パートさん、この三種類に分かれる。
正式に、というのは今は2人いて、店長と、UT(ユーティリティ)部長というのがいる。UT部長は時間関係なく必要な時に来て、忙しかったら入っちゃうとか。色んなことをまかせっきりにできる。
修行で言うと、定年になってから趣味も含めてやるっていう人がいたり。そば屋をやりたくて週に3回・土日と月曜日に働きに来てる子もいる。
俺がやってるのは、言って見れば営業かな。かっこいい言葉で言うと営業なんだけど、言い換えると遊びやね(笑)遊びながらそばんちのことを宣伝したり、自分なりに新しい世界を切り開こうとしていて。お店は忙しい時と暇な時の差が激しいので、パートさんは登録してもらってて、忙しい時に入ってもらう。
修行というのは面白いスタイルですね。自分のお店やそば職人になるためにそばんちに習いに来るといったイメージですね。
そうだね、そば屋の体験ができる。何か他の仕事持ちながらそういうことをやって、徐々にそばの仕事の割合を増やしていって、将来的には自分で店を持つとか、あるいはここの中心的な役割を果たすとか、独立だけでなく、そうなってきたら社員的な扱いになったりとか。
修行的な人については、普通例えば都会ならお金を出してそば打ちを勉強するんだけど、ウチの場合はお金もらいながら勉強できるっていうメリットはあるね。それで、特に修行の方は経営者を育てる、自分が店を開くという観点できてもらうので、時間で働くみたいな感覚は持って欲しくなくて。どうしたらそばんちのお客さんを増やせるか、ここが自分の店っていう感覚で仕事をやってもらう。
経営者の目線で働く。仮想目標を持つことの大切さ。
なるほど、とすると、修行の方は歩合制のような形でお仕事をされるんでしょうか?
そうだね、ただ最低保障として今は日当が3000円かな、あとは売り上げと、入ってるスタッフの人数で計算してだいたい3000円~10000円くらいの日当になる。あくまでもお金目当てというよりは修行するというのがメイン。
修行という立場で来るので、東京だと三ヶ月で100万くらいのお金出して店を開くための勉強をしたりもするけど、ウチの場合はその逆で、ある程度お金をもらいながらそれができる。
今度、そば職人に興味があるということで隣の市から24歳の子が来るという話になってるけど、来るならボーッと来るのじゃなくて仮想目的を持てと言っています。
例えば、店を持つなら店を持つという仮想的な目標を持って来いと。目標がないと何を学ぼうとしているかがぼやけるので。もちろん仮想だから向かないと思ったらやめろと。
売り上げもスタッフのみなさんで分けたりされるんですね。自分の頑張りが直接給料に跳ね返ってくる実感値もありそうですね。
そうだね、はっきりいって俺に来るお金ってほとんどないのよ。スタッフのためにここがある。私は例えば、車のガソリン代とか、何かする時に少し使うとかはあるけど、ここのお金が私の生活費に行くことはない。私は年金で食べてる。ここ(家)は私のものなので。
それってすごいことですね。もはや、後人育成の場所のようになっていますね。
そうそう、全くその通り。
定年してまずはここ、そば屋をやるのは社会に顔を出すための道具だった。そば打ちは面白いから、色んな意味でそばを美味しくするというのが面白かったんだよね。そこに自分もハマって。定年になるからその後どうするかを考えた時にそばをやったわけで。定年があって、何がいいかの中にそば屋があって。
俺自身どこにも修行しにいかなかったので、美味しいそばをどうやって作ったらいいかということを自分で練り上げて、だんだん世の中に問うていってそれが通用した。
現在そばんちで店長を務める宮内さんは、丹波市のお隣の福知山市出身。そばんちでの修行から、現在は店長としてお店を切り盛りしています。
宮内さんは、どんなきっかけでここに修行に来られたんですか?
元々大阪でアパレル関係の仕事をしていたのですが、僕がそば屋やりたいって親父に言った時に、そんな修行の身で食っていけるわけないんやから、一度帰って来いと。それまで大阪にずっと住んでたんですけど、帰ってきたらそばんちに行け、って言われて。今まで全然親の言うこととか聞いたことなかったんですけど、はじめてですね(笑)
宮内さんのお父さんは新聞記者のお仕事をされています。偶然取材で佐藤さんのことを知っていたお父さんからの紹介で、宮内さんはそばんちを知ることになります。
はじめは、親父の言うことに「は?」って思ってたんですけど、佐藤さんブログやっててそれをずっと見てて、面白そうやなと思ったりして。
実際に働きに来て、どうでした?
そばって職人の世界で厳しい世界かなと思ってたんですが、ここのそばんちは職人というよりかは、何ていうんですかね。自分次第というところを感じるところが多かったですね。はじめはそこまで考えてなかったですけど、技術だけというよりかは経営とか店の運営全般のことを考えられるようになりました。
佐藤さん自体あれしろこうしろというよりかは、はじめはずっと見てて。自分でやって経験して成長していくもんや、という感じだったんで。で、そばんちに来て半年くらい経ったら佐藤さん1ヶ月くらい東北に行っちゃって。
大丈夫かな、と思ったりもしたけど、そうやって任せてもらえることで勉強できたことも多くて。
佐藤さんはその間、お店を閉めようと考えていた様でしたが、宮内さんが自分で運営をすると責任を持って答えたため、お店を任せて佐藤さんは東北へ向かったそうです。
そばも、自分で打つだけより、お客さんに出すことで感じることもありますね。やってる上でそばの打ち方も自分流になっていったり。そういうことが学べる場所だなって感じることも多いですよ。
佐藤さんは、宮内さんの様にそばんちで修行して店長さんになってくれたり、社員さんになってくれるという未来も良いと思う一方、技術を磨いて出て行くことも歓迎なんだとか。佐藤さんがおっしゃる様に、普通にそば屋を始めるためにそばの修行をして・・と考えるとお金がたくさんかかったり、実際の経営に触れることなくお店を開店することもあるかもしれません。そばんちさんでお金をもらいながら、そば職人としての技術を学び、さらに経営者としての感覚も磨いていく。こんな仕事のスタイルもあったのかとハッとさせられました。自分で店を開きたい、そばの世界に入りたいという人にとって、こんなにおすすめできる仕事はないと、はっきり感じたインタビューでした。