
暮らしを創り、守る建築業の中で、板金に関する建築部材を作ったり施工したりする専門家がいます。今回取材した田中建築板金工業の田中守社長は、板金を軸とした建築業者の社長です。自らを、そして独立した弟子のみなさんを「家のかかりつけ医」と呼びお客さんの幸せに寄り添った仕事の考え方、そして「5年で必ず独立してもらう」という独立前提での後継者を育てる雇用についてインタビューしてきました。
独立前提で学びに来る、野心のある若者はいつでも歓迎
田中社長は、板金業が専門ですが建築士の免許もお持ちで、測量・設計・図面・確認申請・契約・工事・引っ越しまで家を建てるまでの流れを全て自分でできるようにしてお客様の細かいお困りごとを解決されるそうです。
大きい会社やと施工せえへんのよ、僕の場合は自分で現場行って測って自分で図面書いて見積もりして、自分で確認して家建てるんや。
僕が全部するから、そんなに儲けんくてええねん。板金工事の分だけもらったら、後はタダでしてあげるわけや。電気屋さんや塗装屋さん、全部手配して一銭も手数料もらわずに渡すんや。
僕が動いたら経費発生せんことになってんねん。(笑)お客さんに得してもらったらええ。僕もビルゲイツやないから、今から1兆円も10兆円もよう貯めんわ、時間足らん(笑)(板金の機械を購入したり設備投資した)借金の返済以上はいらんゆうことで、後の時間は盆栽したりしてるわ。(笑)
5年後に独立するって約束してくれる子やったら必ず来てもらうよう準備するで。野心もってきてくれるやつがええね。逆に、仕事しに来ました、勤めに来ましたというもんには務まらんのよ。しんどい仕事やから、独立して稼ぐんや、っていう落ち着きのない子がええな。
ただ、雇ってる時は残業も一切させへん。朝から現場行って、17時には終わる。もし18時までかかったら次の日は16時に終わる。だって人間らしい生活してほしいから。
全く新しい仕事は受けない、家のかかりつけ医という仕事の考え方
田中社長の会社は建築に使う板金の施工や製造が専門です。当然家の補修や災害時の修繕で全くはじめてのお客さんからも相談が来るそうです、ですが、田中社長は新築で建てる家は別として、補修・修繕の新規の仕事は受けないというスタンスでお仕事をされています。
新規のお客さんからも電話かかってくるで?でも受けない。誰かの紹介やったら紹介してくれた人が責任持ってくれるから行くで?防衛線を持っておかへんと、材料買って施工に人派遣して時間使って、最後値切られるとかがやっぱりあるんや。それが怖いからといって逃げてたらいかんのやけど、そういう人はやっぱりおるから。
普通、かかりつけ医って誰でも持ってるんやけど、家に対してのかかりつけ医持ってへん人は怪しいねんて。僕は4代目で会社継いでるんやけど、昔の人は律儀やねん、うちのおじいさんに建ててもらってる、取り付けてもらってると、それで電話かかってくるんや。もちろんそういうお客さんの所は行くよ。
働いていても、独立して自分でやっていける準備を養ってもらう
昔うちにいてくれてた子で、仕事できるようになったから、日当は8時~17時で1万3千円払っててん。辞める言うから話聞いてたら、転職先の会社は日当1万5千円なんやけどそこは7時出発の20時帰社の会社やって、時給で割ったら全然うちの方が得なんや。
そいつには辞める時に「独立しなさい」と、言ったんやね。それで、工場建てて機械買って車買うと金がかかるから、うちのん全部使えと。で、お前が暇やったらウチの仕事手伝って、自分でとってきた仕事は、自分でせえと。手が足らんかったらわしが行ったるから、それでスタート切ったらどうや?と言うたんやけど、でもようスタートきらへんねん。
やっぱり、うちに来てくれるなら野心のあるやつやないと、稼ごうと思わんといかんなと。
例えば、他の会社の現場で人足らへん時に応援して言われるわけや。そうすると普通は親方通して従業員が派遣されるんやけどそうすると、会社は1万3千円を日当で払っとるけどお客さんからは1万5千円もらうんやな。で、2千円は会社がもらうねん、どこでもそうや。
僕の場合は、そいつはうちを欠席したことにして、自分でお金を貰いなさいと。その代わり自分で責任持って仕事せえよ、うちはその日は休んだことにするさかいに、と。
そしたら1万5千円そのまま貰える。やっぱり嬉しいし一生懸命仕事するんよ、そしたら評判良くなるねん。そしたらまた誰々に来てほしい、と言って応援呼ばれるねん、そいつが褒められて伸びるんやったらそういう伸ばし方せんとな。
自分一生懸命頑張ってんのに、何もしてない俺が金貰ったら腹たってくるやん?(笑)
独立を支援するのは、家のかかりつけ医を増やして、丹波市全域の家を守っていくため。
いざ独立するとなったら、例えば機械も1000万くらいかかるし、工場建てて、車買ってたら3000万くらい借金からのスタートになるやん?だから、うちが空いてる時は全部使え、って使わしとる。
例えば、板金の既製品を買って施工すると、高くなるから儲けが少なくなる。そういう材料を作るための機械を買うのが高いけど、やっぱり自分で材料を作ると安いと。
だから、うちが空いてる時は使ってええし、手空いてたら手伝ったると言ってて。ただ、材料は自分の分買ってこいやと。機械や手伝うお金はいらん(笑)ただ、今度うちが困ったら手伝ってくれよと。
かかりつけ医者を増やすところ、養成所やと思って来てもらう。独立前提でどんどん覚えてやれること増やしてと考えると、5年を長いと捉えるか短いと捉えるか。2年・3年もあれば、できるやつはできるようなるさかい。
というより、自分でできるようになったら(独立した方が本人も稼げるし)やめてくれと(笑)こっちの仕事回らへんかったら、まわすし。
今で独立した弟子が3人いるけど、忙しすぎてもう手伝ってくれへんで(笑)誰もが困ってる人を助ける仕事やから、仕事ができたらどんどん頼られる。
それぞれで困ってる人助けて、家も守られていくし、独立した人間が集まったら大きな仕事もできるやろ?
独立したやつと2人で仕事行ったら、いちいち説明せんでええ。例えば、普通3人で1日かかるような仕事が、2人で昼の14時くらいに終わったりするねん。そしたら、そいつ、他の(自分の仕事の)現場行っていいですか?って。どんどん行けと、そうしたらウチの日当と、別でもまた仕事ができて稼げる。
そういう野心があるやつやないとあかんねん。
こうして、雇い入れた人たちに強く独立を推奨する田中社長。以前丹波市で豪雨災害があった際、2・3年近く待ってもらうほどたくさんの仕事でいっぱいになったそうです。そんな時、自分と同じように仕事ができる人がいればたくさんの家を守ることができる。「全部教えて、独立したら機械も車も工場も貸して、とやってたら、もしうちが困った時助けてくれるやん?親方の言うことやったら。って。」と笑いながらお話してくれた田中社長。ここに「働き方改革」の大事な意味と本来の姿があるように感じていました。自ら稼ぎ出し、手に職をつけていくという意志のある方に自信を持っておすすめできる職場だと思ったインタビューでした。