ユネスコ無形文化遺産に認定された伝統技術で全国の神社仏閣を守り続ける~株式会社村上社寺工芸社~<建設業>
- 2022/1/25
- 技術職

日本に古来から伝わり、国の選定保存技術に指定されている檜皮葺(ひわだぶき)・杮葺(こけらぶき)の植物性屋根を主に施工している会社、1915年創業の株式会社村上社寺工芸社にお話を聞いてきました。
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・創業100年~伝統の技を駆使し、華麗・優美に屋根を葺きあげる
・若い技術者を育成、職人の技を継承する土台づくりとは
・追いかけてきた夢~文化財に携わる仕事の分野を、ユネスコの世界遺産に
・『伝統・技・人』歴史を紡ぎ、継承していく
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今回、お話を伺ったのは、代表取締役社長の村上英明さんと、専務取締役の村上貢章さんです。
創業100年~伝統の技を駆使し、華麗優美に屋根を葺きあげる
創業から今に至るまでの経緯を教えてください。
初代である私の祖父が、1915年に静岡県の小國神社で檜皮葺の仕事をさせていただいたのが創業のきっかけとなり、今年で106年になります。
2代目である私の父が1957年に初めて安来の清水寺で重要文化財の仕事をさせていただいて、それが会社にとっての重要文化財の第一号でした。それから京都御所の復元工事など、重要文化財の仕事をさせていただいたりと、先代が現在の村上社寺工芸社の基盤を作りました。
今までで何件くらい重要文化財の施工に携わられたのでしょうか?
そうですね、年間平均すると5,6棟くらいはしていると思いますね。過去に携わらせていただいた重要文化財の総数で言いますと、小さいものも入れると400棟くらいになります。
わかりやすい有名なところでは、これまで長野県の善光寺、島根県の出雲大社、京都の清水寺、広島県の厳島神社、奈良県の春日大社等を手掛けたことがありますね。
超有名所ですね!現場が近くには少ないということですが、こういった大規模な工事に対応できる同業の会社は全国的に数が少ないのでしょうか?
そうですね。今私たちが所属している公益社団法人全国社寺等屋根工事技術保存会というのは、約200名の職人の集まりです。その200名で全国の檜皮葺や、柿葺の仕事をしているという状況ですね。
正会員が36社程おられますけれども、檜皮葺、杮葺に限っては、15,6社くらいでしょうか。ですから、10人以上いる企業は数社程なんですね。大企業からすると本当に小さな、小さな集団でこの仕事をしていると思います。ちなみに、200人のうち30人程がこの丹波市、西脇市に在籍してることになるんですよ。
日本に古来から伝わり、国の選定保存技術に指定されている檜皮葺・杮葺の植物性屋根を葺く働き方についてうかがっても良いでしょうか?
檜皮葺というのが、耐久年数が30年から35年くらいが一つの目安なんですね。一度葺くと30年は持つので、また屋根をめくって新たに屋根を葺いていくという。ただ、一番大変なのは近くに現場が少ないので九州であるとか、静岡県であるとか遠いところの仕事が沢山あるので、どうしても旅仕事になるんです。
※重要文化財 賀茂神社 屋根改修工事(兵庫県たつの市御津町)
昔は仕事が始まってその工事が終わるまで3カ月であろうが半年であろうがずっと現場で生活をし、仕事もし、というのが職人の実態だったんですね。とにかく現場作業が終わらないことには完了しませんので、そう考えると効率的ではあったんです。
ただ、現代でそういったことをすると、新しい人がこういう職人の道に入ってくれませんので、私の会社ではいくら遠くても2週間に一度は自宅に帰って家庭サービスもしてもらわないと、と考えていまして、可能な限り2週間をひとつのサイクルで仕事をしています。
若い技術者を育成、職人の技を継承する土台づくりとは
若い職人が多いと聞きました。職人と言えば若い方が多いというのは珍しいと思うのですが。
1960年頃というのは、若い職人がほとんどいなかったんです。仕事もなかったし、地方にも色々な仕事が来たので、わざわざ旅仕事を希望して職人になるという人が少なくて。1974年に父の代の方々が文化庁へ行き、若い方を研修して育てたいと申し出て取組みだしてから40数年になります。
そして、現在社員数は18名です。実際現場に携わっていただいている職人が14名になります。職人の平均年齢が30歳代半ばという若い若い集団になり、技を継承する土台が出来たかなと思います。私の会社でも一番若い方で20歳、ベテランの方で52歳ですから、平均すると30歳半ばから40歳の比較的若い集団でこの技を磨き、施工しているということになると思います。
伝統工芸を現代に継承し、職人のお仕事の身分保障や収入を安定するために組織化し、尽力されたとお聞きしました。
昔は、職人というのは割と身分保障とか、安定した収入がなかなか得られない職種ではありました。何とか私たちの世代がもう少し安定した所得にしていきたいということで月給制にし、少しずつ所得も上がっていくように文化庁にお願いをしました。少しずつですが、今若い人達の世代に向けて安定した環境整備ができてきたと思います。
昔は1日働いてお金を頂戴するような日払いでした。それでは今の若い人たちが住宅ローンを組んだりする時に不安定な状況になりますよね。すこしでも安定した職人像をと思って会社経営をしています。ただ、昔ながらの職人気質というか、「我々でこの日本文化を支えるんだ!」っていう、華麗優美に屋根を葺く職人としての想いは常に持ってほしいと考えています。
追いかけてきた夢~文化財に携わる仕事の分野を、ユネスコの世界遺産に
今後の展望をお聞かせください。
以前から、私たちの団体を含めて文化財に携わる仕事の分野をユネスコの世界遺産にしようと動いてきて、一昨年の2020年12月に「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として登録されました。本当にありがたいことです。
世界が認めた日本の伝統技術を守っていくというこの仕事を、これから若い人たちには励みにしてもらって、自己研鑽していってもらえれば嬉しいですね。
※国指定文化財 高座神社(兵庫県丹波市山南地域)
これからも、若い方が自分の力を発揮できる場所と仕事をより安定して確保していくというのが今、一番会社として課せられた使命だと思っております。
現場では誠心誠意、心をこめて発注した方々の期待に応えるように良い仕事をしていくということ。その当たり前を大切にし、積み重ねていくこと。村上社寺工芸社として最高の技術と誠実さを、お客様に「ああ、村上社寺工芸社にお願いして良かった」と言って頂ける仕事を続けていくことが出来れば幸せだと思います。
『伝統・技・人』歴史を紡ぎ、継承していく
専務取締役 村上貢章さん
具体的に屋根を修繕する作業は、どんな感じで行われるんでしょう?
作業工程は、まずは“材料採取”ですね。檜皮葺だと桧の皮を必要とするのですが、桧を求めて山をまず探しまして、樹齢80年以上の木から皮を取っていきます。木を伐採せずに立木のまま桧皮を取っていくのですが、一切機械は使わずにヘラという道具を使って皮を剥いていきます。
その時に重要なのが、木の内部を傷つけずに一枚薄いところを残してヘラを入れて、皮を剥いていくことです。剥いた皮を山で一定の長さに整えて、丸皮という一束30キロ束にこしらえて、それを会社に持って帰ってきます。材料を取った後は、2つ目の項目として“材料成形”という作業に入ります。
それを私たちは“切り皮”とか、“皮切り”と呼んでいるのですが、屋根の色の部分に形を合わせないといけませんので、色んな形に整えていきます。この時、桧皮包丁という特殊な形をした包丁を使います。
最後は屋根を葺く作業ですね。作った材料を現場へ持って行きまして、職人さんが3~4人並んで桧の皮を1,2センチずつずらしながら重ねていき、それを竹釘を使って屋根を葺いていきます。その際、竹釘を口に含んで、リズミカルに口から釘を出しながら屋根金(やねかな)という金槌を使って屋根を葺いていくんですが、初めてその作業を見られる方には結構驚かれますね。
※檜皮葺で使用する屋根金(やねかな)
※檜皮葺で使用する竹釘
※1枚1枚重ね華麗な曲線を葺きあげる。
材料も自分たちで調達するんですね。
そうですね。どれだけ有名な神社仏閣でも材料を現地調達だけで賄えることは少ないんですよ。基本的に大きな現場は入札があるんですが、もし入札で他社がとったとしても材料や人手が足りなくなる場合があるんですね。なので協力することもありますし、逆に協力してもらうこともあります。
例えば以前、清水寺の現場があって、そこは他社が入札でとったんですけど、他の会員にも相談されて、結局8社でやりましたね。材料をそれこそ10年かけて集めて。
10年?!なるほど、この仕事は材料も人も、現地調達できないんですね。
その場合がほとんどです。材料はやっぱり山から調達してきて、ある程度仕上げたやつをもっていかないといけないので。なかなか買えるもんじゃないですし。山の管理の問題もありますしね、最近はどこもちゃんと手入れされてるっていう状態ではないですし。
人の育成も時間がかかりそうですが、大体素人が1人前になるまでどれくらいかかるんでしょう?
やはり10年っていわれますね。材料の調達から、現場で葺いてって一人で出来るようになるまで。ちなみに10年働かないと受けられない検定があるんですよ。一週間で模型を作るっていう内容で、図面書いて、材料も自分で用意して、必要な材料が何本いるかとか考えて。
そういうのがあるんですね。今働いてる社員の方たちは皆さん素人からスタートされた人が多いですか?
ほとんどそうですよ。9割は高卒で採用された人です。なかなか職人気質な業界ですし、やってることが特殊なので入り口が狭く感じられるかもしれませんが、ゆってもみんな素人から始まりますんで。
専務としては、仕事のやりがいはどういったところに感じてらっしゃいますか?
他にはない仕事というところですね、間違いなく。自分と同じ仕事をしている人が全国で200人しか居ないんですよ。文化財の建造物に携わる仕事という括りでもなかなかないと思います。
例えば、有名な出雲大社でも、しめ縄や本堂に興味関心を示す観光客の人はいても、なかなか屋根がどうなってるかってあまり見られないじゃないですか?ユネスコに登録されたことでこれからどうなるかですけど、まだまだ認識されてませんがすごい事をしてると自負できますし、形にも残りますし。30年経って、次葺く時を迎えるのもなんか楽しみじゃないですか。当時の自分の仕事がどうだったか、そこで真価が問われるというのも。
神社やお寺など色々な建物があり、神様をお祀りしている屋根を施工するので、絶対に雨を漏らさないということが私たちの使命だと思っています。有名な神社仏閣が「雨漏りしてる」って聞かないと思うんですね。その、当たり前を形にしないといけないと思って仕事してます。
なるほど。それにしても旅仕事っていうのも、なんだか楽しそうです。
現実は案件によって納期があり、先述の通り人に替えが効かない仕事なので、2週間ぶっ通しで丸一日作業するとなれば最初は割と過酷ですし、季節によって暑い現場もあれば寒い現場もあって。生易しい仕事ではないです。
ただ、全国あちこちいけるのはもちろん楽しいですし、たまに海外の仕事の声が掛かることもあります。昔は若手が全員分のご飯を作ったりしなきゃいけなかったですけど、食費は朝昼晩支給されますし、社長や先代、業界の親世代が頑張って今の時代に合った慣習に変わってきています。ありがたいですね。
なるほど。この業界はどういう人が向いてると思いますか?
何より素直な子、挨拶できる子ですね。勉強による知識云々よりも地頭が大事ですね。機転が利く子といいますか。知識は覚えていけばいいだけなので、それは自然と身に就きますし。なので逆に、頭でっかちな人には難しいかもです。
専務から最後に一言お願いします。
社長らの努力で私と同年代以上は職人が揃ってますので、下の世代に入ってきてもらいたいですね。この仕事はみんな素人から始まるので、興味関心があれば是非お越しいただければと。最近ではこの業界でも女性の方が働くようになってきましたし、男女不問です。社員寮もありますので、遠方の方もご相談ください。
まだまだ世の中的には、茅葺(かやぶき)はともかく、檜皮葺も杮葺もニッチで、知らない人も多いと思います。自分たちの仕事が、やること一つ一つが世界遺産であるという自信をもって、一緒に盛り上げていきたいという方は大歓迎です。
全国各地の文化財をはじめとする建物を、日本古来の伝統の技で守り続ける会社。当たり前を大切に、「文化」「技術」そしてそれを継承する「人」を大切にしていると感じました。職人仕事と言えば少し年齢層の高いイメージがあるのかもしれません。村上社寺工芸社は技術をこれからの若い世代に継承し、その先を見据えている企業でした。オートメーション化が進む現代社会の中でオートメーション化ができない「仕事」や「心」が村上社寺工芸社にはありました。
※この記事は2021年12月16日に取材した情報をもとに作成いたしました。
《フルタイム職員募集詳細》
求人番号 |
28130-65619 |
求人情報の種類 |
フルタイム |
事業所名 |
株式会社 村上社寺工芸社 |
代表者名 |
村上 英明 |
所在地 |
〒669-3103 兵庫県丹波市山南町篠場443-1 |
職種 |
屋根葺き工 |
雇用形態 |
正社員 |
年齢 |
高卒者限定 |
就業時間 |
08:00~17:00 |
賃金 |
月額 170,000円 |
就業場所 |
〒669-3103 兵庫県丹波市山南町篠場443-1 |
福利厚生 |
通勤手当:実費支給(上限あり 月額50,000円まで) |
補足事項 |
【指定校求人】 |
※この求人情報は、ハローワークが受理した求人票から、その一部を抜粋して掲載しています。さらに詳しい情報はハローワーク求人情報をご覧ください。
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